産科と婦人科 Vol.88 No.9(2021年9月号)「書評」より

評者:金山尚裕(浜松医科大学名誉教授/静岡医療科学専門大学校学校長)

陣痛の発来機構など分娩の生理,分娩3要素の異常などの研究発表が日本で減少していることに危惧している.エストロゲンは分娩期に極めて高い値を示し,産褥期には激減することから分娩・産褥期ほど女性の体に大きな変化を来す時期はない.したがって,この時期は正常と異常の境が狭いため,恒常性の破綻が起きやすく重篤な疾患が多いのも特徴である.本書は分娩・産褥の生理とその異常が明快に解説されている.また妊娠は母体にとって半移植片であることから免疫学的寛容状態であり,感染症においても重症化しやすいともいわれているが,周産期分野の重要な感染症が網羅されているのも特徴である.
なにより信頼できるのは,全6章からなる本書が最新の情報を元にエビデンスレベルの高い内容になっていることであり,美しいイラストを多く用いて,読者に分娩,産褥,周産期感染症についての基礎的理解と臨床的理解が一目瞭然で得られるようになっている.
一読して感じたことは,臨床医には日々の臨床を深化させ,研究者には新たな研究テーマを見出す契機になり,研修医・助産師・学生にはこの分野の魅力を伝える一冊となっていることである.読者にとって本書は分娩・産褥期の知識を深め,診療技術の向上に繋がるものになるであろう.充実した内容からこの分野の研究発展にも寄与するものと確信している.