刊行にあたって

 2006年4月からスタートした6年制薬学教育は,「モノ」中心から「ヒト」指向に大きく変革しました.その後,文部科学省主導でモデル・コアカリキュラムの見直しに関する議論が重ねられ,2015年4月から改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムに基づく教育が行われています.改訂版では,大学の教育と病院・薬局での実務実習とを体系的に関連づけ,基礎から臨床までの総合的な6年間の学習を求めています.そして,学習成果基盤型教育(outcome-basededucation)に力点を置き,「薬剤師として求められる基本的な資質」10項目が明示され,卒業時に必要とされる学習成果として位置づけられています.

 このような新しい薬学教育を推進するためには,優れた教科書が不可欠であります.しかし臨床薬学の領域は,基礎薬学に比べてまだ歴史が浅く,実践的な臨床能力を有する薬剤師養成には,医師と薬剤師が連携する薬物治療の最前線を反映した適切な教科書の刊行が望まれます.このような状況に鑑み,臨床薬学のエキスパートを養成する全国薬系大学の教科書として,《臨床薬学テキストシリーズ》全10巻の刊行を企画しました.

 本シリーズの編集方針は,以下の5点を主な特徴としています.

  1. 薬学と医学のコラボレーションにより,構成内容を精選するとともに,従来の教科書にない医療・臨床的な視点,記述を充実させる.
  2. 各巻の編集にあたっては,担当編集者に加えて,薬学と医学からゲスト編集者を招き,内容の充実を図る.
  3. 改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムに準拠した内容とし,必要に応じて最新の知識を盛り込む.
  4. 冒頭に項目ごとのSummary(ポイント)を明示し,また用語解説,コラム,トピックスなどを適宜組み入れ,理解の促進を図る.
  5. 学習内容,理解度を知るために,国家試験問題の出題傾向をもとに作成した確認問題を掲載する.

 このような新しい編集方針のもとで刊行された本テキストシリーズが,臨床薬学を学ぶ薬学生の必携の書として,また医療現場で活躍する薬剤師の座右の書として,広く活用されることを願う次第です.

2016年11月

監修 乾 賢一